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課題別指針



カ テ  ゴ リ



更  新  日


2013/07/09 10:50



分 野 課 題


貧困削減 貧困削減






主  管  部


経済基盤開発部、貧困削減課題タスクフォース






ト ピ ッ ク ス

















指針1-2    貧困の認識と定義





引用元: 課題別指針「貧困削減」(2009年9月)の第1章「貧困の概況」(1-2)

貧困の認識と定義

 貧困の認識と定義については、様々な議論があり、国際的に統一されたものはない。主な貧困の捉え方としては、所得や消費に着目した所得貧困(income poverty)や「潜在能力」(capability)に着目したものがある。

 所得貧困は「基本的ニーズを満たすに必要な財の入手を可能にする購買力の欠如」と定義される16。そして、生活に最低限必要なものを購入するための所得または支出水準を「貧困ライン」17 として設定し、それ未満の所得・支出水準にある人口を絶対的貧困層として把握する18。しかし、こうした所得貧困の考え方については限界も指摘されている。例えば、多様な面を持つ貧困が単純化されてしまうこと、貧困ライン以下、人口間の違いや多様性が軽視されがちであること、更に、社会や集団の歴史や価値観に根ざした固有な貧困認識が勘案され難いこと等である19。こうした批判を踏まえ、貧困の把握に際しては、貧困の多面性・多義性(poverty breadth)、貧困の度合い(poverty depth)、貧困の期間(poverty duration: 慢性的貧困/一時的貧困)にも、留意する必要があるとの指摘が出ている20
 
 他方、「潜在能力」に着目した貧困に関する議論はセンによって提唱されてきたものである。センは、財や所得は、あくまでもある厚生(well-being)水準を達成する一手段にすぎないとして、貧困を議論する際には、人間としての「機能」(functioning)、即ち「ある状態にあること」(being)と「何かをなすこと」(doing)を直接的に問うべきであると主張する21。その上で、ある環境下で、個人が実現し得る機能の集合体と、それらからある機能群(生き方)を選択する自由を併せ持つ概念として、「潜在能力」を提唱した。こうした考えに立てば、開発とは、生き方にかかる選択肢の幅と選択する自由、即ち「潜在能力」を拡大する過程と捉えられる。逆に、貧困とは、こうした選択の幅と自由が極端に制限されているために、人間としての基本的機能を果たすことが、困難な状態と捉えることができる22。また、センは「潜在能力」は社会の有り様や社会関係と密接に関係しているとして、貧困と差別や社会的排除との関連についても言及している23

 こうした議論を踏まえ、近年は、経済・物質面のみならず、貧困を多面的に捉え、更に、様々な能力、或いは潜在能力との関係で捉える考え方が主流となってきている。例えば、主要ドナーの援助動向や方向性に、一定の影響力を持つ経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and Development: OECD)の開発援助委員会(Development Assistance Committee: DAC)は、2001年にDAC貧困削減ガイドラインを発表し、貧困とは「経済的能力、人的能力、保護能力、政治的能力、社会文化的能力が欠如した状態である」と定義している(各能力側面については表1-1参照)。


表1-1 DAC貧困削減ガイドラインにおける5つの能力


 経済的能力

(Economic Capabilities)

収入を得て、消費し、資産を持つことができる能力。食料安全保障、物質的豊かさ、社会的な地位を決定する要因である。これらの要因は経済的・物質的資源(土地、家畜、森林、漁業、クレジット、適切な雇用)へのアクセスと深い関連がある。
 人的能力

(Human Capabilities)

保健、栄養、教育、安全な水や住居等を基礎とした能力。人々が、生計を向上するための重要な手段であると同時に、幸福な生活を送るために、必要不可欠な要素である。病気や非識字は、生産的な労働、収入の向上、政治・社会参加の障害になる。とりわけ女子の教育は、貧困削減及びエイズのような病気との闘いにおいて、極めて有効である。
 保護能力

(Protective Capabilities)

経済的ショック、外的ショックに対応できる能力で、貧困に陥ることを防ぐために重要である。不安定性と脆弱性は他の要因と強く関連しつつ貧困の重要な要因となっている。飢えや食料不足は病気、犯罪、戦争と並んで貧困要因の中心問題である。貧困は、季節的な変化や外的ショック(自然災害、経済危機や暴動・紛争など)により発生するもので、貧困に陥ったり抜け出したりする動的なものであることを理解する必要がある。
 政治的能力

(Political Capabilities)

人権や政治的自由が保障されていること。これらが剥奪されていることは貧困の一つの大きな特徴である。専制や不正、公権力による暴力は、貧困層にとって大きな不安を与えている。政治的能力の欠如は、貧困から脱却するために必要な資源へのアクセスも妨げる。
 社会文化的能力

(Socio-cultural Capabilities)

コミュニティの価値あるメンバーの一員として、社会参加できる能力。貧困層は、社会的地位や尊厳、帰属する社会の文化を重要なものと捉えており、地理的・社会的な孤立は貧困の主要な要因である。
出所:OECD/DAC(2001)

図1-3 窮乏化の罠
 そしてこれら5つの能力が、単に欠如しているのみならず相互に負の作用を及ぼし窮乏化の罠(図1-3)や貧困の悪循環を形成し、貧困からの脱出を困難にしていることに注意を喚起している。窮乏化の罠とは図1-3で示される通り、例えば、貧困層の直面する物質的貧困が健康不良や教育レベルの低下を招き、それがまた、貧困層の労働生産性の低下や社会的孤立化、更には、政治力や交渉力の無さ、微細な環境変化への脆弱性を生むこと、そして貧困層は、その脆弱性故に、状況改善のためのリスクを取ることが極めて難しく、結果、窮乏化の罠から抜けられない状態にあることを示すものである。

 DACガイドラインは、また、貧困は、貧困層を取り巻く環境や社会構造に起因する場合も多く、各能力側面に影響を与える様々な要因の特定と分析が、効果的な貧困削減の大前提であるとしている。他方、従来貧困、或いは貧困層に関しては、欠如部分や援助の受け手としての側面が、強調される傾向にあったが、「参加型開発」や「ソーシャル・ビジネス」に関する近年の議論は
24、貧困層を開発やビジネスのパートナーや牽引役とする、新たな認識を生みつつある。そこでは、貧困層の持つ知識や能力、更には、主体性への着目と重要性が強調されている。

 他方、従来貧困、或るいは貧困層に関しては、欠如部分や援助の受け手としての側面が強調される傾向にあったが、「参加型開発」や「ソーシャル・ビジネス」に関する近年の議論は24貧困層を開発やビジネスのパートナーや牽引役とする、新たな認識を生みつつある。そこでは、貧困層の持つ知識や能力、更には、主体性への着目と重要性が強調されている。
出所:チェンバース著(1995)、OECD/DAC (2001)を参考に作成

  

出所:チェンバース著(1995)、OECD/DAC (2001)を参考に作成


【脚注】
16:所得貧困の詳細はLipton and Ravillion (1993).参照
17:貧困ラインとしては、各国共通の尺度として、世界銀行やMDGsが使用してきた、一人1日1米ドルや1.25米ドル(購買力平価)を基準とするものがある。また、これとは、別に、多くの国で独自の貧困ラインが設定されている。絶対的貧困状況の把握に当っては、両者を参照することが望ましい。
18:絶対的貧困は最低の生活水準に達することができない状態を指すが、こうした水準は所得や消費レベルで把握されることが多い。これに対し、相対的貧困とは、ある社会の大多数よりも貧しいことを示し、その社会の格差や不平等度に関連した概念である。
19:こうした批判については、例えばChambers(1997), Agarwal(1994), Jodha(1988)参照。
20:Thomas(2000) , p. 4
21:Dreze and Sen(1989) , p.15
22:Sen(1993)
23:Sen(1981, 1992) 。差別や社会的排除は、個人や集団の様々な資源や機会に対するアクセス(エンタイトルメント)を剥奪・制限することにより、貧困を深刻化させる。社会的排除を貧困の根本的原因とする見方に関しては、de Haan(1998) 参照。
24:「参加型開発」及び「ソーシャル・ビジネス」については、本指針3-3「貧困削減ツールの具体例」を参照。

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添 付  資 料


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