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課題別指針



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更  新  日


2013/05/17 10:49



分 野 課 題


貧困削減 貧困削減






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ト ピ ッ ク ス

















指針2-4-1 JICAの貧困削減協力に対する3つの基本姿勢





引用元: 課題別指針「貧困削減」(2009年9月)の第2章「JICAの協力の方向性」(2-4-1)

JICAの貧困削減協力に対する基本姿勢と留意点

1 3つの基本姿勢
JICAは以下の3つを貧困削減に対する基本姿勢とする。 
※青字部分をクリックすると各項目へジャンプします。

 1. 貧困削減協力の主流化
 2. 貧困状況の包括的かつ的確な把握
 3. 事業計画・実施における戦略性の向上



(1) 貧困削減協力の主流化
 貧困は、特定課題であると同時に、セクター横断的な性質を持つ課題であるため、当該国の政策や開発計画策定支援や、各セクターの案件に、積極的に貧困削減の考え方が取り込まれる必要がある。そのため、JICAでは、「貧困対策」と「貧困配慮」両案件の形成・実施支援を推し進める。JICAでは、セクターに関わらず「貧困対策案件」のみならず、途上国の国民を広く対象とする案件において、貧困削減に資する方策を積極的に組み込むことにより、「貧困配慮案件」の形成・実施を促進し、JICA事業における貧困削減の主流化を図る。
 
 貧困削減協力の主流化に向けては、まず組織的な体制強化が必要となる。そのため、①貧困案件(貧困対策と貧困配慮)を判別するための基準の整備、②基準に基づいた各国の貧困地域や貧困層、社会的弱者集団にかかる情報整備、③そうした基準及び情報に基づいた担当部署による貧困案件のスクリーニングを行う。また、貧困案件については、事業目的、適切なターゲティングや関係者分析、また、貧困削減に資する活動が事業実施計画やPDM等に十分反映されたものとなっているかどうかを検討する体制づくりも進めていく。
 
 更に、貧困対策及び貧困配慮にかかるJICAの経験の整理や情報整備、また、こうした案件の実施に効果的と思われるツールの検討を行い、具体的な事例に基づいた職員や専門家等関係者に対する貧困削減協力の啓蒙及び研修の充実を図る。

(2) 貧困状況の包括的かつ的確な把握
 貧困は、極めて多面的であり、且つ環境や紛争等、他の開発課題との関連も深いことから、食料がない、字が読めないといった表層的な貧困の一面だけを捉えて改善しようという試みは、貧困の本質的な解決に繋がらない。以下に、述べるいくつかの点は、貧困状況を包括的且つ的確に把握するための示唆である。
  • 複層的・複合的・複眼的視点
 貧困層は、与えられた環境を変化させたり管理する力や機会がないために、厳しい環境に対して、自身を調整することを常に迫られている。彼らは、複雑で予測不可能な変化の影響を最小限にし、可能な限りの安定的な暮らしを維持するために、複雑で多様な生存・生計戦略を持っている。その戦略は、その時々の状況によって異なり、年齢や性別、宗教や民族、所属する社会階層、居住する国、地域、社会文化的特性等に大きく影響されるため41、我々外部者が貧困状況を把握するには、極めて柔軟な視点を持つことが要求される。

複層的視点(マルチレベル)
国家レベル、地域社会レベル、及び貧困層自身のどのレベルに(あるいは、どのレベルの組み合わせに)どのようなニーズや能力があるか42)。
複層的視点(マルチセクター)
「経済的、人的、保護、政治的、社会文化的能力の協力」あるいは「貧困層が能力を発揮できる環境の整備」のいぜれに(或いは、いずれの分野の組み合わせに)貧困削減のニーズがあるか。)
複層的視点
貧困状況やニーズについて、社会の固有性に基づき、貧困層自身(主観)とそれ以外の人々(客観)の間で相違があるか43。それはどのような相違か。
         
  • ターゲティング、貧困要因、貧困層の脆弱性や能力の把握・理解
 ターゲティングとは、貧困者の所在を正確に把握し、どの人々・集団を当該事業の対象とするか特定し、そのターゲット集団に、確実に届く効果的な対策を施すことである。ターゲティングには、①家族構成や職業、教育レベル等、一般的に貧困と関連の深い個人の情報を用いる方法、②居住地域や社会階層グループ、或いは属性(難民やHIV/AIDS患者等)等で判断する方法、或いは③セルフターゲティングと呼ばれる、対象としたい貧困層が、良く利用するような低品質且つ低価格の財の利用による自己選別等の方法がある。一般的に貧困層とは、所得が低かったり、健康を害している人々、或いは教育を受けられない等の理由で、脆弱な人々の他、女性、少数民族、障害者、HIV/AIDS感染者、低カースト層等、様々な差別により、社会的に孤立化させられ、周縁的な立場に追いやられる傾向の強い人々を指す。しかし、国によりその基準は異なるために、当該国において、どのような人々が貧困層と捉えられているかについて、十分な調査の上、把握する必要がある44。多くの貧困層は「声」をあげることが難しいため、その窮状が十分把握されず援助の対象からこぼれ落ちてしまいがちである。彼らを援助の主たる裨益者とするためのターゲティングの手段としては、参加型貧困アセスメント(Participatory Poverty Assessment: PPA)や参加型農村調査(Participatory Rural Assessment: PRA)等の社会調査手法を計画段階で実施することや各国の貧困ラインやジニ係数、或いは家計調査結果を利用したターゲティングも可能である。貧困層は、一般的に、は脆弱な人々であるが、その程度や何に対して脆弱であるかは、個々人で様々である。援助する側は、往々にして、貧困層の能力不足を指摘するが、適切なターゲティングを実施し、原因が能力不足にあるのか、或いは能力を発揮する機会の不足にあるのかを見極め、最も必要な人達に必要な支援が届くようなターゲティングが大切である。
  • 既存情報の活用、他アクターとの協調・連携、事業サイクルを通じた情報収集
 貧困の状況は、事業開始前に十分に把握されることが望ましいが、現実には、限られた人的・時間的・資金的リソースで得られる事前の情報収集・分析には限界がある。一方、多くの途上国には、これまでに当該政府機関のみならず、他ドナーやNGO、或いは市民社会組織等、他のアクターが収集した情報や調査結果などが蓄積されている。これらの情報は、当該政府によって体系的に整理されて保管されていないことが多いものの限られたリソース内にあっては、できるだけ他アクターと協調・連携し、既存の情報を活用することに前向きに取り組むことが重要である。また、事業実施に必要な個別具体的な情報は、事業サイクルを通じてしか得られない場合もあるため、事業開始後も継続した情報収集に努める必要がある。

(3) 事業計画・実施における戦略性の向上
 どのような外部的な介入が途上国社会に変革をもたらし、公正な経済成長を遂げさせるかは、開発援助の永遠のテーマであり、すべての援助プロジェクトに共通する普遍的な回答はないだろう。しかしながらJICAは可能な限りの包括的な貧困情報に基づいた事業計画を立て、戦略性を持って事業を実施することを目指している。尚、事業実施において戦略の一貫性を担保するためには、協力準備調査段階で想定される協力分野のセクター分析のみならず、当該協力を実施した場合に、直接・間接的に誰が(或いは、どんな組織が)どのように関わるのか、また、事業が誰にどのような利益/不利益をもたらす可能性があるのかに関する関係者分析にも重点を置くことが必要である。更に、その結果を事業実施計画書や案件審査調書、或いはPDM等の文書に明確に記述し、事業期間を通じて関係者間で常に意識化されることが求められる。
  • 開発戦略に対するコミットメントとJICAが対象とする重要課題の見極め
 貧困削減協力に当っては、当該国の貧困状況のみならず、政府の国家開発計画、財政・行政能力、他のドナーやNGOの支援動向等を考慮の上、相手国としてニーズが高く、また、JICAとして重要と考える分野を戦略的に選び取っていくことが重要である。
 
 その前提として、JICAは、PRSPを含めた国家開発計画やセクタープログラム策定プロセスに参加し、これらの計画やプログラムが、実効的に貧困削減に繋がるよう、相手国政府を始めとした関係機関と協議するだけでなく、日本及びアジアでの貧困削減の経験知を活用して、積極的に知的貢献を行っていく。
 
 その上で、こうして策定された開発計画やプログラムに含まれる一連の分野・事業活動の中から、相手国の優先度、他ドナー及びアクターとの役割分担、我が国の経験や果たすべき役割を勘案した上で、重点支援分野を選択し、有機的なスキームの連携も検討しながら、効果的な案件形成・実施に努める。また、事業実施に当っては、何よりも相手国のオーナーシップの醸成と尊重を心がける。また、モニタリング・評価では、JICA事業のプロジェクト目標の達成度のみならず、いかに当該事業が相手国政府の貧困削減を含む開発政策や計画の実施、及び開発目標の達成に貢献しているかを視野に入れることが肝要である。
  • キャパシティ・ディベロップメント(CD)とプロセス重視
 キャパシティ・ディベロップメント(CD)とは、「途上国の課題対処能力が、個人、組織、社会等の複数のレベルの総体として、向上していくプロセス」である45。このプロセスに対して、JICAは、途上国自身の内発的で、主体的な努力を側方支援する46。貧困削減に当っては、個人の能力向上のみならず、能力が発揮できる環境の整備、即ち様々なレベルでの政策・制度の整備や組織強化が必要となる。これがCDの定義と合致し、CDの促進は、ひいては持続的貧困削減を可能とする。従来、我が国の技術協力は、短期的な状況改善ではなく、途上国が自身の開発課題を解決していくために、必要な能力向上のプロセスを重視していた。また、中長期的な視野で能力向上のために、必要な試行錯誤の過程そのものをも尊重するものであった。このような観点は、近年概念整理が進んできたCDの考え方と共通するものである47。また、貧困削減の分野では、MDGs等の指標の達成やパフォーマンスといった成果重視志向が、引き続き援助コミュニティの中心的な議論である中で、CDは、成果を達成するプロセスのあるべき姿を示すものであり、CDやプロセス重視の知見・経験の蓄積を日本の援助の強みとして、今後共議論を深め、対外的にも発信し、引き続き積極的に取り組んでいく。
  • 民間セクターや他ドナー/アクターとの協調・連携(開発パートナーシップ)
 「すべての人々が恩恵を受ける、ダイナミックな開発を進める」とのJICAビジョン達成のための4つの戦略の一つとして「開発パートナーシップの推進」を掲げている48。この戦略では、①現場を重視してニーズを的確に把握し、②成果を重視して迅速且つ効果的に相手国の自助努力を後押しし、従来の主な連携先である国際機関や他ドナー機関に加え、③地方自治体、大学、NGO、民間企業等との連携を促進するとしている。
 
 近年、特に、活発な議論がなされている民間企業との連携について、JICAは基本方針49を定めた。同方針は、従来公的セクターが担ってきた社会経済基盤の開発・運営、各種サービスの民間セクターによる効率的な提供や民間企業の進出による雇用創出・所得向上、能力開発、税収増等の効果を期待し、官民連携の在り方についての方針・方策を提示している。民間企業の活動による途上国の経済成長の押し上げは、貧困削減の必要条件であることから、JICAとしては、途上国における民間企業活動の環境を整備し支援することで、途上国、民間企業、ODAがビジネスと同時に貧困削減の観点からもWin-Win-Winの関係になることを目指す50
  • 事業効果の持続性と面的展開
 事業効果の持続性や面的展開には、短期的な視点から、個別案件レベルでの目標達成のみを目指すのではなく、中長期的視点から、支援対象地域や相手国社会の自立的発展を促す、能力形成や制度・組織の構築を図る必要がある51。また、上述の(2)「貧困状況の包括的かつ的確な把握」で述べたような視点や方策により、人的・資金的リソースの状況や当該地域社会/コミュニティの社会的文化的な背景を下に、事業の対象候補地域を類型化し、類似した地域社会/コミュニティを将来的な面的展開の対象地として、選定することが重要である。その上で、事業の計画当初に、持続性や将来的な面的展開を視野に入れた協力のグランド・デザインを描くことが肝要である。また、実際の事業展開では、事業の雛形を地域や集団の特性に適合させる許容度を持たせることが有効であろう。
 
 面的展開には、事業そのものの妥当性と内容の的確性も去ることながら、人的・資金的リソースも必要である。当該国自身で調達可能なレベルのリソースの投入を基本とするが、国際社会による資金協力が必要な場合もある。JICAの貧困削減における取り組みにおいても、技術協力によるモデル事業実施に有償資金協力を通じた資金支援を組み合わせることによって、地域内・国内に面的に展開(スプレッドアウト)していくことも、必要に応じて検討する。中長期的には、民間組織の参入による事業の委譲や面的展開を視野に入れ、前項で述べたような途上国、民間組織、ODAの協働可能な関係の在り方を模索する。

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【脚注】
41:JICAでは、国別援助実施方針を作成し、それぞれの国の状況を分析し、当該国の開発ニーズに応じた支援に努めている。また、同方針の特記事項の中に、分野横断的課題として、人間の安全保障やジェンダーの項目を設け、国ごとの状況や援助実施上の留意点について記載している。
42:ドナー及び途上国自身が、当該国の総体としてのキャパシティを知り、強化すべきターゲットを決めるための作業として、「キャパシティ・アセスメント(CA)」がある。「キャパシティ・ディベロップメント(CD)」と貧困削減の議論は本指針2-4-1(2)「貧困状況の包括的かつ的確な把握」、CAの詳細は国際協力機構(2008e)を参照。
43:貧困層自身の捉える貧困を定性的に分析した調査の代表例として、世界銀行により、1990年代後半に、81カ国で実施された、PPA(Participatory Poverty Assessment)があげられる。その報告書であるディーパ・ナラヤン他著(2002)p.36-37では、貧困者の視点からの貧困指標が紹介されている。例えば、ベトナムの貧困層は、貧困家庭について食料や財の不足だけでなく、「2、3年おきに立て直す必要のある、非常に不安定な家屋に住むこと」や「井戸を持たず、新鮮な水を簡単に利用できないこと」もあげている。一方、ウガンダの女性は、「家を所有せず、食料のために働き、富裕者の土地で生活する人々」を最貧困層と考えている。このように貧困の指標は、地域やコミュニティ、或いは人によって異なる。
44:JICAでは一部の案件において、支援を想定している地域やコミュニティの現状を把握するために、「コミュニティ・プロファイリング」を実施している。
45:国際協力機構(2006a), p.2
46:CDの考え方の背景には、先進国の技術や知識、システムを外から移転しようとしてきたことや技術協力一般に対する反省がある。
47:但し、我が国の従来の技術協力は、カウンターパート(C/P)個人への働きかけを中心とした技術移転や途上国の人材育成、C/P機関の機能強化に焦点を置いた「キャパシティ・ビルディング(CB)」であった。CDはあくまで相手側のプロセスであり、援助者はファシリテーターであるというCDの概念は、CBと区別して、近年確立したものである。
48:詳細は国際協力機構(2008f)参照。
49:国際協力機構(2009d)
50:本指針3-3-4「ソーシャル・ビジネス」を参照。
51:詳細は大濱裕(2007)を参照。

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添 付  資 料


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